commonplace 3
ドリーム小説 パンッ!と景気の良い音がして、走者が走り出す。
そんな陸上部の練習をは眺めていた。
放課後部活見学を考えてが見つけたのは、遠目だがよく練習が見える場所にあったベンチだった。ここなら勧誘されずに部活を見ることが出来る。
転入生に向けられる周囲の視線に、そろそろうんざりしていた。
「にしてもあの子、速い…」
言っては悪いが身長が低く、長いとは思えない足をしているのに、どうやらその中で最も速い。腕時計で測ったのだから確かだ。
それに比べ自分は、と思う。
去年よりも足が遅くなっている事に紗希は気付いていた。半年走ってなかったのだからあたりまえといえばあたりまえだが。
―!」
名を呼ばれて、は沈んでいた思考を奥におしやった。
そうして視線を上げてみれば、こちらに向ってくる少女が目に入る。
金の長い髪に青い目。先日も会った年上の友人を思わせる色に、でもこちらは随分と気が強そうだと思った。その前に友人は男性だし、短髪だが。
話を戻して、どうやら同じクラスの女子らしいと言う所まではわかるのだが、名前が思い出せない。そもそもあの状態で名乗られても記憶に残っていないのは責められることではないだろう。
「えっと…なに?」
は曖昧に返すと、彼女はの見ていた方を見てふーんと言った。
「陸上?」
「…どうだろう」
「そ」
先の返答にそれ程興味無さそうに答えて、少女は急にをじっと見た。
「ちょっと来て」
そう言うやいなや、の手を取ってぐいぐいと引っ張っていく。
「何処に行くの?」
行き先も知らずに、名も知らぬ子についていくわけにはいかない。
返って来た答えは「生徒会室」だった。




生徒会に入った途端、会議中だったらしい数人と担任の視線がに集中した。
「連れてきたわよ」
これでいいでしょと言わんばかりの様子でどかと席に座った少女は、さっさと決めてとディランディ先生を睨んだ。
「まあ、まて。は何が決まるかわかってるのか?」
「いえ、全く」
ほらみろとディランディ先生が苦笑する。
「生徒会メンバーだ」
それまで黙っていた、見れば非常に美形の生徒が口を開いた。声からして男子生徒だろうか。というか。
。君は編入試験の成績が優秀だったので此処に呼ばれた。ここにいる人間は同じく一定以上の成績を出した者だ。我々はここから…っ、何をしている!!」
「いえいえ」
彼の話中、ごそごそとカバンから携帯を取り出したはある写真を表示して、目の前の彼と見比べた。それをそのまま、彼に見せる。
「……リジェネ」
「あ、やっぱり知り合いですか」
彼とリジェネの違いは癖っ毛かどうかと長さぐらいだろうか。
親戚か何かだろうと納得して、携帯を閉じる。
「で?」
「ここから生徒会メンバーを選ぶんだよ」
「アレルヤ」
「やあ」
がやっと納得した頃、ペットボトル二本と紙コップを持ったアレルヤが現れても、は余り驚かなかった。
双子が頭が良いことは、日々の生活でよくわかっている。
「ハレルヤは?」
「絶対嫌だそうです」
「やっぱりな」
アレルヤの答えに、赤髪のどうにも頭の良さそうに見えない男子生徒が舌打ちした。
それにびくっと平凡そうな少年が怯えて、を連れてきた少女に睨まれる。
「早急に決めてください」
とそっくり美青年がディランディ先生を促す。
「成績順はどうでしょうか」
多分下級生の銀髪の少女が言った。
「それなら、会長がティエリア、副会長が、会計はそうだなアレルヤてとこか。書記はルイスでどうだ?」
暫し沈黙が落ちた。
「私はかまいません」
「僕も」
「僕もだ」
「なら俺は、部活に戻るぜ」
その中で紗希はすっと手を上げた。
「何だ
「副会長とは何をすれば良いのですか?」
「あー基本的にはティエリア、あ、こいつな。の指示に従ってれば良い。部活とかか?」
「まあ」
「活動日は基本的に毎放課後だが、休んでも問題はないぞ」
「実際、去年のハレルヤはほとんど来なかったしね」
「そうですか」
ほっとは息を吐いた。




チャンスは何時来るかわからない。そんな言葉がの頭をめぐった。
横ではガイが驚いているのがわかる。
きっかけは仕事の一つだった。
少し古風な建物で窓の下に座り込んで本を読むと、外から顔を出して笑うガイ。出来上がったものでは、ガイの金の髪が外の光を反射してキラキラとまぶしく光っていたのをよく覚えている。
そしてガイとが出たそれが思いのほか好評だったようで、再び話が来た。
それは良い、が。
「あそこのポスターって」
ここから数駅のところにある、このあたりの中心といえる街。県庁所在地ではいないが、それよりも賑やかな所である。
そこに立つ大きなビルには、駅から出てすぐにあるファッションビル一面に大きなポスターがいつも張ってある。
「急にすごい話になったな」
ストローでかき混ぜれば、ガラガラとアイスティーの氷が音を立ててガラスの中をまわる。
「ガイはどうするつもり?」
「俺は受けるつもりだよ。はとりあえずジェイドか」
「うん。さすがに了解をもらわないとね」
そうだなとガイは何を思い出したのか少々顔を引きつらせながら笑った。
の保護者である所のジェイドという男はとにかく色々容赦がない。過去何か痛い目を経験し、今でもちょくちょくからかわれているガイには、そのに手を出しあまつさえ無事なアッシュが信じられない。
良く同棲(いや同居)など許したものだ。アッシュを弟同然に思っているガイでさえも、さすがにの年頃の男女は不味いだろうと思ったほどだというのに。
「ピオニーに先に話すか」
ぶつぶつと作戦を口にしながら財布を取り出したを止めて、会計をすませて外に出る。ほとんど散ってしまった桜に、春も終わりかと思った。



← back to index
template : A Moveable Feast